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トラッド・スタイル 7

PROLOGUE

派手な2009年でした。

自分としては全力でせめていきました。

ファッションも、生活も。

締めくくり、年末に夫婦で聖地巡礼する。

大好きな熊野古道を歩いた。

おそらく、その旅で授かったのであろう。

2010年に入り妻が身籠る。

その知らせを受け、私は決心した。

「子供が無事産まれるまで、着替えない」と。

 

トラッド・スタイル 7

 

願掛けのつもりであった。物欲まみれの自分への

戒めでもあった。誰に頼まれたのでも習ったのでもない。

ただただ、ストイックになりたかった。

そうなると、さて。

何を着て8ヶ月を過ごすのだ?となる。

タフなトラッド・アイテムといえど8ヶ月は

もちこたえられまい。数週間でホームレスチックに陥る。

結論を言えば、デニムであった。

大好きな、リーバイスと過ごそう。それこそ私にとっての

リアル・トラッド。デニム、セットアップ・スタイル。

パンツだけは改めて買うことにした。2009年7月製造の

LVC501、55年モデル。このレプリカシリーズは

確か最後の日本企画であったと思う。非常にストイックな

作りでアメリカ製だし、文句なしであった。

ジャケットもデニム。シャツまでデニム。全てLVC。

ジャケットは99年7月製造の大戦モデルのレプリカ。

シャツは98年8月製造のウェスタン・シャツ。

ショート・ホーン。大味な懐かしいアメリカ製。

どちらもほぼ着ていなかったので、パンツともども濃紺。

3ピースで着込んでいくこととなる。

願掛けといいながら、内心色落ちを楽しみにしていたりして。

シューズだけは気分転換できる様に、色々履くことにした。

ヴァンズのスリッポンが多かった様に思う。

当初、人の目がやや気になった。

しばらくして、「なにか欲しいな」と。

バーニーズへ駆け込みシルヴァー・ウォレットチェーンを

購入。ラスト。ターコイズのカメオが入ったシンプルな奴。

これで完全にしっくりきた。やっていけると確信。

数ヶ月でなじんできたが、においとの格闘が始まる。

ルーブルー横浜でインセンスを。久々にパチュリ・オイルを

塗りたくる。高校時代によくやってたな〜。

毎晩、デニムの色落ちを眺めながら、父親になる日を待った。

寒い日も暑い日もデニム3ピースでがんばった。しまいには

髪すら洗わなくなっていった。

そして9月。無事に娘が産まれた。

病院の看護婦とは顔見知りになっていたが、おかしな亭主として

認識されていたらしい。後で妻から言われた。

その時点で、私は服に対する考え方が大きく変わっていることに

気づく。朝、服を選ぶ、ということの

服を選ぶ、とういことが頭からぬけてしまったことに、気づく。

なので、もう無事出産しているんだけども、ずっとデニムだった。

着替える、ということがなんだかとてつもないことの様に

思えた。

子持ちの方ならお分かりかと思うが、赤ん坊が加わっての

生活というのはもう、時間があっという間にすぎていく。

徐々に生活のリズムは戻っていくが、日々奮闘である。

デニムづくめの父親として私もそうであった。

2010年はそうしてデニムとともに幕を下ろす。

服のことも考えず、妻と娘、デニムを愛し生活することは

とても幸せであった。これこそが自分に体現できる最高の

トラッド・スタイルなのではないだろうか。

2011年に入り、政治では民主政権がより混迷を深めて

いったがもうでもよかった。

やがて、春が訪れようかという頃。

妻と娘が寝入ったのを確認し、久々に映画でも観ようと

「燃えよ・ドラゴン」のDVDに手を伸ばす。

約束された至福の時間を堪能し、布団へ戻った。

 

今、思う。

あの夜が、前時代の最後だったのだと。

3月11日の昼過ぎ、激しい揺れとともに

我々は色々なものを失っていった。

 

東日本大震災である。

巨大な波がどれだけの人間の命を奪ったのだろう。

原子力発電所が爆発し、未だにその被害の規模を

知ることすらできない。

そして、夢とともに始まった民主党政権も終了。

 

このフイナム・ブログで1997年からの私の生活を

振り返ってきたが、その社会は3年前に終わってしまった。

最近の過去を振り返ってきたのだが

まるで古い歴史をたどっている様な作業であった。

自分の身近な記録なのに。

断絶、しているのである。

どうしようもないほどに。

 

新時代においての一歩がどのように踏み出されるのか。

まだよく分からない。

だがどんなに過去を振り返っても、そこにはなんのヒント

ないってことだけはよくわかる。

 

ちなみに、今、私はアメリカのお土産Tシャツに

ルーブルーで買ったコーデュロイの短パンでこの文章

を打っている。